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タワシノート

言いたいことがうまく口で言えないから書くことにした

「マイドヨルの妄想族」をやってみた(後編)

 

kstk.hateblo.jp

 

ついに最後のお題行きます!

 

写真4. 床に転がっているヘッドマネキン

 

美容師になるため専門学校に通う藤沢流一(フジサワ リュウイチ)には悩みがあった。

(今日も西田さん可愛いなぁ)

視線の先にいたのは同じクラスの西田 なな(ニシダ ナナ)という女性。黒く長い髪をゴムで一本に束ねている。その髪に乱れはなく、彼女が動くたび美しくなびいている。

(ホンマ綺麗やなぁ。彼女になってもらわれへんかなぁ)

そんなことを考えていると手からシャーペンが転がり落ちてしまった。拾おうと椅子から腰を浮かすと、

「藤沢くん、シャーペン落としたで」

なながシャーペンを拾ってくれた。

「あの、えっと、その……ありがとう」

流一は緊張しながらお礼を言うと、ななは友達のもとへと帰っていった。

(このままやと一生接点持たれへんままに卒業や……どうしたら……)

そう思いながら、授業で使う首だけのマネキンを見つめる。すると、流一の脳内にある思い付きが。

「これや……」

流一は授業が終わると急いで家に帰った。

 

数日後。

授業開始前、なながマネキンを取り出し、少し席を離れた。それを待っていたかのように流一は立ち上がり、自分の持っていたマネキンと素早く入れ替え、そそくさと立ち去る。

(これでよし……)

流一の顔は怪しいくらいにニヤニヤと笑っていた。

 

何事もなく、授業は終わり、帰宅すると、

「さあて、どうかな……」

そう言いながらスマホを触る。

すると、淡いピンク色のソファと、その横のベッドにはかわいらしい動物のぬいぐるみが飾られている。どこかの家の一室である。

「おっ、ちゃんと映ってるやん! すげぇ!」

そう、流一はあのマネキンに小型カメラを目の部分につけたのだ。彼女を観察し、共通の話題を作るべく探りを入れるつもりである。

「通販で結構高かったけど買ってよかった」

流一が感動していると、彼女は部屋から出て行く。そのドアが閉まったと同時にその振動でマネキンはバランスを崩した。床にぶつかり、コロコロ転がりはじめた。

「あぁあああ!」

流一の叫び声むなしく、マネキンはそのまま転がりベッドの下に入り込んでしまった。

「嘘やろ!」

思わず持っているスマホを振る。マネキンが動くはずもない。その上、

「音聞こえへんなったし!」

ぶつけたところが悪かったのか、音声録音機能が壊れてしまったのだ。

ななが部屋に戻ってきた。しかし、彼女のふくらはぎの真ん中くらいまでしか見えない。

「くっそぉ……足しか見えへんやん。最悪やん」

頭を抱えながら、画面を睨む。

「まぁ、足だけでも見えてるだけええか……」

 

翌日。

「気ぃ取り直して、見てみるかーっと」

と、カメラを起動させるとななの白い足と、もう一人誰かの足が見える。

黒色のスニーカーソックスを履き、剛毛な足の毛から男だと推測できる。

「まさか彼氏か……?」

画面を睨んでいると、突然ななが床に倒れこんだ。

「え……?」

倒れたななの身体を何度も男の足は踏みつけ蹴り上げると、男は部屋を出ていった。

彼女は横たわったまま、身体が小刻みに震えている。

「泣いてるんや……」

ななが立ち上がり、部屋を出るのと同時に流一は電源を落とした。

腕を組み、黙り込む。

助けてあげられない悔しさに押しつぶされそうだった。

流一はふと思い出す。

彼女はどんなに暑い日でも長袖を着ていた。

女子は学校指定の膝丈のスカートも履いてもいいのだが、ななが履いている姿を一度も実たことがない。常に黒色のパンツスタイルだった。

真夏日のある日の授業時、友達から、

「暑くないの?」

と訊かれていた際には、

「日焼けすると赤く腫れちゃうんだ」

と答えていて、その友達もそれを聞いていた流一も「そうなのか」くらいで、あまり深く考えていなかった。

「まさか、身体にあざ……それを隠すために……」

カメラのバッテリーが切れる日が来る。またマネキンにカメラを仕掛けるということは出来るだろうが、前みたいに上手くすり替えれるとは限らない。

「俺が助けたらな……」

 

登校すると、ななが教科書片手に勉強していた。

「お、おはよう、西田さん」

と緊張しながらも声をかけてみる。

「藤沢くんおはよう」

笑顔で彼女は返す。

昨日あんなに暴力を受けていたのにも関わらず、いつもと変わらない表情に胸が痛む。

「藤沢くん……どうしたん? 私の顔になんかついてる?」

「え? いや、なんでもない」

流一は逃げるようにななから少し離れた席に座る。

(早くなんとかしたらなアカン……)

 

帰宅して、カメラを起動して数時間後、またななはあの足に蹴られていた。

目を逸らしたくなる映像を、しっかりと見つめる。

「なにか……あいつの手掛かりはないんか……」

画面を凝視するが、カメラから遠いことと、あまり画質が良くないこともあり、なにもわからなかった。

 

一週間が過ぎようとしていたある日の授業中。

(あと何日、何時間カメラが持つだろう……)

じっと考えこんでいる流一の頭に衝撃が走る。

「いってぇー!」

頭をさすりながら見上げると、目の前にはこの授業担当の教師・梅田先生が立っていた。

「お前授業中だぞ! なにボーっとしてる」

関東出身の梅田先生は標準語で流一を注意した。

「……すんません」

頭を軽く下げて、黒板の内容をノートに写す。

「余談だけれど、先生は昔、裸足で部屋にいた時にボーっとしていて、ハサミが足に突き刺さったことがあるんだ」

先生は教卓に戻りながら言うと、

「わぁー痛そう!」

「聞いてるだけで痛なるわぁ」

教室内から悲鳴が上がる。

「まだ実家にいた頃だったから、家族に発見されてそのまま病院行って、何針も縫ったよ。お前らも刃物持ってる時は気をつけるんだぞ」

「はーい!」

 

その日も帰宅するとすぐにカメラの電源を入れた。

画面の右端にカメラのバッテリー残量が表示されている。ついに、電池マークの三分の一しか表示されなくなってしまっていた。

「くそ……安もんやからそないに持たへんか……」

あの足が今日も姿を見せる。ななに暴力を加えたあと、珍しくドアの方ではなく、カメラのあるベッドの方へやってきた。

「こ、こっち来た……!」

カメラのことがばれたかもしれない。身体中から冷や汗が流れる。

男はカメラのことには気づかず、前を通りすぎ、部屋から出て行った。

流一の気持ちは安心よりも、ショックに襲われていた。

先ほど近づいてきた時にあるものが映った。

男の右足の甲に大きな縫い痕を見つけたのだ。その一瞬を見逃さなかった。

「まさか……)

流一の脳裏によぎるのはたった一人……。

 

 

翌日。休み時間に入り、友達のもとへ行こうとするななの肩を叩いた。

「ん? どうしたん、藤沢くん」

「あのさ、こないだの授業で西田さんのカットしたマネキン見せてほしいねん」

「どれのことかな?」

「ほら、あの、ボブの……」

「あぁ。それやったら家にあるから、帰った後写メ送ろうか?」

「あかんねん、実物見せてほしいねん。今日、家、行かせてもらわれへんかな」

畳みかけるように流一は頼む。

「えっ?!」

「マネキン見たらすぐ帰るから」

「う、うん……わかった……」

ななは流一の必死な表情に押され、承諾してくれた。

 

 

「どうぞ、入って」

「お邪魔しまーす……」

玄関入ってすぐのドアを開けた。いつもカメラ越しに見ていたななの部屋。

(ここが……)

流一は胸を高鳴らせ、そして、カメラ回収という重大任務に緊張しながら足を踏み入れる。

「あのマネキンどこやろ? 持って帰ってきたはずなんやけど……」

ななが部屋を見渡していると、その時ガチャっと、家のドアが開く音がした。ななの動きが止まり、床にうずくまり震え始める。流一は慌ててななの肩を抱く。

「西田さん大丈夫か!?」

「なんで……今日は……」

部屋に入ってきたのは、梅田先生だった。

「先生……」

「おう、藤井くん。なにしてるんだね?」

「いや、ちょっと。先生こそなんでここに? ここは西田さんの家ですよね」

「そうだね。そして、僕の家でもある」

「は?」

「彼女は僕の恋人なんだ」

梅田先生はそう言うとにこりと笑う。

「嘘や」

「嘘じゃない。さぁ、ななから離れてくれないか」

「殴るような奴が恋人なはずないやろ」

流一のこの一言に、梅田先生の顔つきが一変した。ふんわりとした柔らかい笑みを浮かべていた先生が、眉間に皺をよせ、目を細めて睨みをきかす。

「どこにそんな根拠があるんだ?」

「それは……」

口ごもる流一の答えを聞かず、

「でたらめなことを言うな。とにかく、ななから離れろ!」

梅田先生は声を荒げ、大股でこちらに向かってくる。

「お前に、西田さんを渡すわけにはいかん!」

流一は怯えるななの前に立ち、両手を広げて止める。

「やめてっ!」

止めに入ったななは梅田先生に突き飛ばされて壁に全身を強く打ちつける。

「お前っ……!」

流一が胸ぐらを掴むと、梅田先生は流一の顔面を思いきり殴った。

流一は倒れることなく、梅田先生の右頬を殴る。お互いが殴りあう鈍い音が途切れることなく、部屋に響く。

もう自分一人ではどうにもならない。そう判断したななはフラフラになりながら立ち上がると、部屋から飛び出し警察に電話をかけた。

 

数十分後、通報を受け、男女二人の警官がやってきた。

梅田先生が被害者面をしながら必死に事情を話す。

ななは黙って女性警官の横に立っている。

「それでですね、この青年が証拠もないのに僕が彼女を殴っているだなんて言うんですよ」

「……証拠ならここにある」

流一はにやりと笑う。梅田先生がそう言うのを待っていたのだ。

ベッドの下からマネキンを引き抜き、男性警官に渡した。

「これは……?」

「開けてみたらわかります」

男性警官は首をかしげながらマネキンを開けた。

「これは小型カメラ……?」

「そこに映っている足と、先生の足を照らし合わせたら同一人物やとすぐわかるはずです」

「足だけでわかるはずが」

と呆れる男性警官に、

「映っている足の右甲に大きな傷があります。そして、先生の右の足の甲にも同じ傷があるんです」

流一は先生の足を指しながら告げる。先生はなにも言わず、流一とななを睨む。

「しかし、なんでこんなところにカメラが……?」

女性警官の一言に、先生は水を得た魚のように生き生きとし始める。

「そ、そうだ! なんでカメラがあるんだ! しかも藤沢くんはこのカメラで僕の犯行を見ていたというが、君こそストーカー目的でそのカメラをつけていたんじゃないのか?!」

一気に追いつめられる流一。

「それは……」

逃げ場はない、すべてを自白しようとしたその時だった。

「カメラは……」

この場にいた全員がななを見た。ななはまた微かに震えている体を押さえて、声を振り絞る。

「カメラは私がお願いしました。私、この人からずっと暴力を受けていて……! どうにかして証拠を取りたくて……でも小型カメラのつけ方わからなかったから……同じクラスの藤沢くんにお願いしたんです」

「なな……お前ぇ!」

殴りかかろうとした先生を後ろから男性警官が羽交い絞めする。

「みなさん、詳しいことは署でお聞かせ願いますかな」

 

数週間後。

二人は学校へ行くために歩いていた。

二人は目を合わすことなく、黙っていて、どこか重苦しい空気が漂う。

そんな空気の中、流一が口を開いた。

「ありがとう」

「えっ?」

「カメラのこと。俺にお願いしたんですって言うてくれて……」

なながなにか言おうとした瞬間、流一は彼女の前に立ち、頭を深く下げた。

「気持ち悪いことしてほんまにごめん!」

何事かと通り過ぎる人々は不思議そうな視線を向ける。

「藤沢くん! あの……顔上げて! みんな見てはる!」

「……ごめん」

流一の耳元に顔を近づけると、

「今回の件は、私のこと助けてくれたからチャラにする」

そう言うとななは微笑みを浮かべた。

「ずっとな、苦しかってん」

「うん」

「先生と付き合ってることは誰にも言うなって言われてて、友達にも言うてなかってん。やから、暴力受けてるっていうことも相談出来んくて」

「そうやったんか」

「偶然とはいえ、ほんまにありがとう」

「そんな、お礼言われるような……。でも、良かったよ」

照れながら、頭を掻く。少し間を置いてから、

「なぁ、西田さん」

「なに?」

「俺と……友達になってくれへんかな?」

「友達からでええの?」

まさかの返答に一瞬驚いた流一だったが、笑顔でこう答えた。

「うん。急いで知ろうとするより、ゆっくりのほうがええような気がして」

 

ここから二人は友達として新しいスタートを切った。

 

<解説>

 最後、マネキンの首がお題で、見た瞬間に美容師ネタにしようと思い、登場人物は流星くんイメージというのを決めました。流星くんって一番美容師さんにいそうじゃないですか?ww

痛々しいシーンが多く、書きながらこっちも「痛っ!」と思いながらなんとか書き上げました。

 

そしてついに「マイドヨル」完結です!わーい!四つ全部書けてよかった!
マイPちゃん、この場を借りまして改めて楽しいお題をありがとう~!